宮沢賢治「銀河鉄道の夜」について4

 ジョバンニがカンパネルラと見た雑誌の事を思いだし、変わってしまった関係に思わず涙を浮かべるなか、先生の天の川に関する説明が終わると共に授業も終わります。先生は最後に、今日は銀河のお祭りだから、外へ出て空を見てごらんなさい、と付け足して生徒達に本やノートをしまう様に言います。そして、しばらく教室は机の蓋を開けたり、本を重ねる音でいっぱいになりましたが、すぐに皆は立って礼をすると教室を出ていきました。ジョバンニが学校の門を出るときには、同じ組の何人かは家へ帰らずにカンパネルラを中心にして、校庭の隅の桜の木の所へ集まっていました。それは、先生が言っていた星祭りのに青い明かりを作って川へ流す烏瓜を取りに行く相談の様でした。ジョバンニも本心では混ざりたかったのか、手を大きく振って学校の門を出ました。
 すると町の家々には銀河の祭りの為に、植物の葉や枝をつるしたり、枝に明かりをつけたりと支度をしている様でした。ジョバンニは家に帰らず、町の大きな活版所に入って、昼なのに電燈がつき、沢山の輪転機がまわり、その中で働く人々の中で入り口から三番目の高いテーブルに座った人の所へいってお辞儀をしました。

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宮沢賢治「銀河鉄道の夜」について3

 最初に手を挙げたカンパネルラが答えないと、先生は自分で星図を指さして説明を始めました、白い銀河を大きな良い望遠鏡で見ると、たくさんの小さな星に見える、そうでしょうと聞かれてジョバンニは真っ赤になって頷きました。そして、自分は知っていたし、カンパネルラも知っている、なぜならジョバンニが読んだ雑誌はカンパネルラの父の家で一緒に読んだ中にあったのです。それに、カンパネルラは雑誌を読むと、すぐに父の書斎から大きな本を持ってきて、キレイで美しい銀河の写真を2人で見たのです。それをカンパネルラが忘れる筈ないのに、返事をしなかったのは、自分が朝も午後も仕事が辛くて、学校に来てもみんなと前の様に遊ばずに、カンパネルラとも話さなくなったので、それを気の毒に思ったのだと考えたのです。
 そう思うとジョバンニは自分もカンパネルラも哀れな気がしたのです、それでも先生は説明を続けます。天の川が本当に川なら、小さな星は底の砂や砂利にあたる、水に見える部分は真空というもので、太陽や地球も真空に浮かんでいる、私達は天の川の水の中に棲んでいて、底の深く遠い所に星が集まって、白くぼんやり見える。そして、レンズの説明や様々な星について次の理科について話す、という所で授業は終わりの時間となります。

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宮沢賢治「銀河鉄道の夜」について2

 先生が天体の川について生徒に問いかけた時、カンパネルラは手を挙げました、他にも四、五人、そして物語の主人公ジョバンニも手を挙げようとしましたが、やめてしまいます。何かの雑誌で、その川が星の集まりだという事を読んだのです、けれど最近のジョバンニは毎日の教室でも眠くて、それに本を読むヒマも、そもそも読む本すら持っていませんでした。だから、何がどんな事かも分からない気持ちになったのです。ですが、手を挙げようしたのを先生は見逃さず、ジョバンニの名を呼びました。先生に声を掛けられたジョバンニは勢いよく席を立ちますが、はっきり答える事が出来ず、前の席に座っているザネリという同級生は、ふりかえって笑っていました。
 それで赤くなり、ますます答えられなくなったジョバンニは二度目に質問されても答えられず、それを見て先生はカンパネルラを指名しました。すると、一番最初に手を挙げた筈なのに、カンパネルラももじもじ立ち上がり、答えませんでした。意外だとカンパネルラをじっと見ていた先生ですが、それでは授業が進まないので、急いで自分で星図を指さしたのです。

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宮沢賢治「銀河鉄道の夜」について1

 本日から紹介する「銀河鉄道の夜」は、宮沢賢治が世を去った後に発見された、未定稿、つまり作者が「完成した」と判断していない原稿の童話だそうです、作者である宮沢賢治が既に世を去った後に発見されたのと、作中に多くの造語が登場するので、研究家の間では様々な解釈が行われているそうです。そんな「銀河鉄道の夜」が本として世に出たのは昭和9年頃に文圃堂が出した「宮沢賢治全集」の第三巻です。あらすじは、貧しい家計を支える為に働く少年ジョバンニが、ある夜に友人のカンパネルラと共に夜空を走る不思議な列車「銀河鉄道」に乗って旅をする物語です。他の代表作もありますが、この「銀河鉄道の夜」はアニメーションや映画、演劇にプラネタリウム番組など、数々の派生作品が作られた事でも有名です。
 そんな物語の始まりは、教室でジョバンニとカンパネルラが他の生徒と一緒に「午後の授業」を受けている所から始まります。内容は天体の事で、先生は川だと言われたり、乳の流れた後と言われたりしていた、白いものは何か、と生徒達に問いかけた所です。

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宮沢賢治「注文の多い料理店」について9

 2人の紳士が山中で迷い込んだ「西洋料理店 山猫軒」は客に料理を出す店ではなく、店に入った客を西洋料理にする店でした。最後の扉に書かれた文字と塩壺を見て、それに気付いた2人は顔を見合わせ、がたがたと震えだしました、そして入ってきた扉から逃げようとしますが、全く動かないのです。代わりに、奥には扉があり、二つの大きなかぎ穴があり、銀色のフォークとナイフの形が切り出してあり、そこには「いや、わざわざご苦労です。大へん結構にできました。さあさあおなかにおはいりください。」と書かれていました。しかも、かぎ穴から二つの青い眼玉が覗いていたのです。2人は「うわぁ。」とがたがた震え、泣きだしました、戸の向こうでは塩を使わない様子を見て、気付かれたと知るや今度は声を掛けてきました。
 皿は洗ってある、菜っ葉もあるし、あとは2人が来て皿に乗るだけ等と物騒な事を言われ、あまりの怖さに2人は顔をくしゃくしゃにして声もなく泣きました。逃げる事も出来ず、ただ食べられるしかない、そう思ったら「わん、わん、ぐゎあ。」という声がして、亡くなったはずの白熊の様な犬二匹に扉を破って室内に飛び込んできたのです。それを見てかぎ穴の眼玉が消えたと思えば、二匹は奥の扉から中に飛び込み、暗闇の中で「にゃあお、くゎあ、ごろごろ。」という声がしました。すると、部屋は煙の様に消えて、2人の紳士は草の中に立っていたのです。周りを見れば脱いだ衣服に金庫にしまった財布やネクタイピンがあり、犬が戻ってくると案内役の猟師が呼ぶ声がしたのです。助かったと元気になった2人は猟師から団子をもらい、途中で山鳥を買って東京に帰りました、ただ、しわくちゃになった顔だけは元に戻らなかったそうです。これで「注文の多い料理店」は最後となります、次回からは同じく宮沢賢治の代表作「銀河鉄道の夜」を紹介します。

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宮沢賢治「注文の多い料理店」について8

 扉に書かれた文字の指示に従い、身ぎれいにして、鉄砲と弾丸に貴金属を外して、衣服の殆どを脱いで、牛乳のクリームを耳まで塗った2人の紳士が好い加減に何か食べたいとぼやくと、すぐに次の戸がありました。そこには「料理はもうすぐできます。十五分とお待たせはいたしません。すぐたべられます。早くあなたの頭に瓶の中の香水をよく振りかけてください。」とあり、戸の前には香水の瓶が置いてありました。これも素直に従い、2人は香水を頭へ振りかけました、ですが直ぐに香水が酢のような匂いだと気付きました。用意した者が中身を間違えたのだろうと、2人は扉を開けて中に入りました、その裏には「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。もうこれだけです。どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさんよくもみ込んでください。」とあり、青い瀬戸の塩壺が置いてありました。
 これには今までの事を楽観視していた2人も驚き、顔を見合わせ、ようやく「注文の多い料理店」の意味を理解しました。注文が多いのは客が多いのではなく、自分達に店が注文をしていたのだと、そして此処は自分達に西洋料理を食べさせる店ではなく、自分達を西洋料理にする店だと。2人はがたがたがたがた、と震えだして物が言えませんでした。

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宮沢賢治「注文の多い料理店」について7

 おかしな事が続きながらも、これも西洋料理店ならではの決まり事だと思い、少し怪しく思いながらも2人の紳士は店の指示に従って、どんどん奥へ進んでいきます。そして、鉄砲と弾丸も手放し、今度は帽子に外套、更に靴まで脱ぐように書かれた扉に行き当たります。よほど偉い人が来店しているのだろうと、2人は指示通りに靴まで脱いで、扉の中に入りました。その裏には「ネクタイピン、カフスボタン、眼鏡、財布、その他金物類、ことに尖ったものは、みんなここに置いてください」と書いてありました。扉の横には立派な黒塗りの金庫があり、鍵まで置いてありました、何かの料理に電気を使うから貴金属は危ないだろうし、尖ったものは単純に危ない、金庫があるなら、最後の会計は此処でするのだと思い、これも指示に従います。
 そして、少し進むとガラスの壺があり、傍の扉には中身のクリームを顔や手足に塗ってください、と書かれていました。壺に入っていたのは、牛乳のクリームでした、1人が疑問に思いますが、もう1人は外が寒くて、店の中が暖かいと肌が切れるから、その予防だろうといい、靴下まで脱いでクリームを満遍なく塗りました。そして、扉を開けると裏には、また壺があり、耳までクリームを塗るように書かれていました。

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宮沢賢治「注文の多い料理店」について6

 肥った若い2人の紳士は山奥で道に迷い、そこで見つけた西洋料理店に入り、何かを食べたいと思うのに、出てくるのは扉ばかり。しかも、おかしな事ばかり書いているのです、注文が多い料理店だと念を押したり、髪を整えて、履物の泥を落としてください、と書かれていたり。明らかにおかしな事ばかりですが、西洋料理店のルールだろうと解釈したり、高級な店だから色々と決まり事があるのだろうと、2人は指示に従います。しかし、髪を整えるブラシを置いた瞬間、室内におかしな風が吹きこんできたのです。流石に驚いた2人は、急いで次の部屋に入ります、そろそろ何か食べたいと空腹も限界の2人ですが、入ってきた扉の内側には他の扉と同じ様におかしな事が書いてあったのです。
「鉄砲と弾丸をここへ置いてください。」
 扉の横には、黒い台があり、流石に荷物を持って食事はできないか、偉い人が来ているのだろうと2人は鉄砲と弾丸を台の上に置きます。そして、次に現れた黒い扉には「どうか帽子と外套と靴をおとり下さい。」と書かれていました。

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宮沢賢治「注文の多い料理店」について5

 山奥で見つけた西洋料理店で何か食べようと入った2人の紳士ですが、その店は廊下が続き、ようやく辿り着いた扉には「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」、裏には「注文はずいぶん多いでしょうがどうか一々こらえて下さい。」と、書かれていたのです。これを1人は顔を顰めますが、片方は楽観的に料理が来るのが遅い、という意味だろうといいます。顔を顰めた方は、なるほど、と納得して、どこか部屋に入りたいといいました。ですが、2人の前に出てきたのは新しい扉で、その脇には鏡がかかっていて、丁寧に長い柄のついたブラシも置いてあったのです。扉には赤い文字で、
「お客さまがた、ここで髪をきちんとして、それからはきものの泥を落してください。」
 と、書かれていました。料理店なら清潔にしないといけないのは当然と思い、今度は疑うことなく、2人とも素直に髪を整えて、靴の泥を落としました。ですが、ブラシを置くと、そのブラシは霞んで無くなり、室内に風がどうっと入ってきたのです。びっくりした2人は互いに身を寄せ合って、扉を開けて、次の部屋に入りました。

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宮沢賢治「注文の多い料理店」について4

 山中で道に迷った2人の紳士、そこに急に現れた立派な西洋づくりの「西洋料理店 山猫軒」、この時点で怪しいのですが、空腹の2人は丁度いいと店に足を踏み入れます。そして、2つ目の店の扉には金文字で「ことに肥ったお方や若いお方は、大歓迎いたします」と書かれており、これを読んで大喜びしたのです、なぜなら2人とも「肥って(ふとって)」おり、しかも「若い」です。両方とも兼ねているなんて自分達にピッタリの店だと、廊下を進んでいくと、今度は水色のペンキで塗られた扉がありました。片方は扉ばかりの店を不思議に思いますが、もう片方はロシア式で、寒い所や山の中はこんな作りだと言います。そして、水色の扉を開けようとすると、上に黄色い文字があり、こう書かれていました。
 「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」
 さらに、扉を開けた裏には
 「注文はずいぶん多いでしょうがどうか一々こらえて下さい。」
と、書かれているのです。1人の紳士はどういう意味だと顔を顰めますが、もう1人は客が多いから注文しても料理が来るのが遅くなります、という意味だろうといいます。

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