夏目漱石が修繕寺で倒れたのは1911年で、その四年後の1915年に胃潰瘍による出血多量で亡くなります。この頃から漱石の体調は崩れていったそうです。先の記事にも書きましたが、その頃を漱石自身が振り返って執筆したのが「思い出す事など」です。その時に漱石は自分は「生」と「死」の二つの世界を横断したと記しています。そして、人は体の血を半分も失うと死んでしまうし、三分の一を失うと昏睡するという、そんな沢山の血を出したのに自分が生きている。
後で妻に話を聞くと、もう一度でも血を出せば命が危ういと言われており、それを防ごうと薬まで用意していたという。自分は特に苦痛も無く夜を明かしたと綴っています。その背景では奥さんが慌てるあまりに漱石が危ういという電報を弟子に頼んで百通も出してしまい、それを受けて漱石を見舞おうと人が押し寄せたそうです。この部分を読むと、それだけ周囲が大騒ぎだったのに自分は特に痛くなかったなぁとマイペースに原稿へ向かう漱石が思い浮かびます。
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