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Category Archives: 風媒花
武田泰淳 『風媒花』 三十六
一 橋のほとり 三十六 「『まさか自殺や他殺じゃないと思うんだが』 『自殺する事もないだろうがなあ』 骨の尖った中井の咽喉が、ゴクリと動くのを、峯は見とどけた。河面も河岸も河沿いの建物の壁も、おしなべてねばっこい黒色に … Continue reading
武田泰淳 『風媒花』 三十五
一 橋のほとり 三十五 「中日事変の開始された七月七日、この中井が、吉原の大門をくぐるとすぐ、土地の若い衆と立廻りを始め、「サア殺せ」と大の字に寝そべったものだ。豪奢な北京生活で、峯を羨ましがらせた事もある。憲兵の情婦と … Continue reading
武田泰淳 『風媒花』 三十四
一 橋のほとり 三十四 次に失業中の中井の描写になります。それは当時を象徴する人間の姿だったの魔かもしれません。 「『何だ、峯、馬鹿に帰りを急ぐじゃないか』中井の力無い笑いが、虫歯の黒い歯並びをのぞかす。医師の診断は「偏 … Continue reading
武田泰淳 『風媒花』 三十三
一 橋のほとり 三十三 「桂の瀟洒(しょうしゃ)な後姿が階段の降口から消えるのを待って、峯も席を離れる。誰にも別れを告げずに立去るのは、峯のくせだ。棕櫚(しゅろ)の鉢の側を通ると、強靭な葉が彼の合オーバーの肩で、バサバサ … Continue reading
武田泰淳 『風媒花』 三十二
一 橋のほとり 三十二 「『峯は老子にはなれんですよ』と軍地は予言する。 『軍地も墨子にはなれんよ』と峯も予言した。老子は巧妙な韜晦(とうかい)者。或は徹底した宇宙主義者。墨子は果敢で質樸な実行者だ。どっちでも成りおおせ … Continue reading
武田泰淳 『風媒花』 三十一
一 橋のほとり 三十一 「『そいつは一体どこにいるのかね。日本にいるのか、中国にいるのか』西は、くすぐったそうな微笑で峯にたずねる。/『峯のは、被害妄想だよ。アプレゲール的誇張だよ』酔うと青みを増す軍地の顔は、依然として … Continue reading
武田泰淳 『風媒花』 三十
一 橋のほとり 三十 (承前)革命の壁にぶつかるよ。その壁を意識し、そこから離れられなくなる。だけど、文学的な革命者という奴は、つねに悲劇に終わるもんだよ。軍地は我々のあいだでは、多少政治的な男かも知れんさ。だが、本当の … Continue reading
武田泰淳 『風媒花』 二十九
一 橋のほとり 二十九 「……。峯は軍地の攻撃を柳に風と受け流すことができる。メチルプロパミン錠の、うす黄色い錠剤が、平日よりたった五粒増しただけで、峯は冷静な、積極的な男にしている。」 峯は薬を服用として奴と自身が保て … Continue reading
武田泰淳 『風媒花』 二十八
一 橋のほとり 二十八 「……暗いボックスに坐り込んだ二人組の客の一人は、時々彼等の方に視線を投げる。肩つきのガッシリした、紺色の服の中年男だ。……。中年男は不機嫌に、やかましい中国狂(シナきちが)いたちを、睨みつける。 … Continue reading
武田泰淳 『風媒花』 二十七
一 橋のほとり 二十七 「給仕女がアルミ盆の上の料理の皿をガチャガチャさせ、別の客へ運んでゆく。彼等の方を見まいとして、白エプロンの胸をそらしかげんに、彼女は二人組の客の席へ行く。ワイシャツの襟のよごれた男、血色のわるい … Continue reading