武田泰淳 『風媒花』 五

一 橋のほとり 五

「ガレージの横から、……、『フミオキトクスグコイオウジキユキユうビヨウインヤスエ』電報が配達されたのは、約一時間前だ。……行くことを遅れさすために、峯は今日の会合に、わざわざ出席しようと、心に決めたのである。……必然の段取りに、いくらか逆らってみる。すると囲繞(いにょう)している必然という奴の正体がちっとは瞥見(べっけん)できるものだ。」

ここで、峯という人間が所謂、天邪鬼という事が解かります。義弟の「キトク」という電報を受け取っているにもかかわらず、峯は直ぐには、病院に行かずに、「会合」にわざわざ出席するというあべこべの行動を敢えてとります。ここに峯という人間の一筋縄ではとらえられぬ一端が現われます。

「中国分が研究会に、峯はかつて彼の青春を賭けた。」

その「会合」が「中国文化研究会」だという事が判明します。

「十五年間、……。だが現在の彼は、研究会を育て守る側にいない。自分が生み出したその会によって、批判される立場にある。」

この十五年の間に峯の何が変わったのでしょうか。峯が直ぐに病院へ直行しないそのひねくれた心情とそれは関係しているのかもしれません。それにしても、批判される立場とは穏やかではありません。

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