武田泰淳 『風媒花』 六

一 橋のほとり 六

「会は激しい政治情勢の風圧の下で、次第に凝結し、結晶を鮮明にしつつある。同人の精神は強固になり、態度もいつか大人びて来た。……。彼は気取(けど)られぬように離脱した。自分自身にさえ気取られぬように。……長い鉗子(かんし)を、彼の頭蓋の奥に挿し入れて来る。会はまるで、彼にとって必然性でもあるかのように、おちつき払って、彼の外部で、彼と無関係に動き始めていた。」

峯が病院に直行せずに立ち寄ったものが同人の会なのがここで明らかになります。この研究会が、峯の頭蓋の奥に鉗子で……という表現は、この同人の会と峯との奇妙な関係をうまく表現しているように思えます。武田泰淳が得意とする、一瞥で物事をがっしりとつかみ、それを手の上でこねくり回して、武田泰淳ならではの鋭い表現が生まれる、その特徴がよく現われています。

この同人の会と峯との関係の微妙さは、ここでの表現で全て語り尽くしていると思います。

「会は、青春の彼が正義と信じた物を、今なお代表しつづけていた。会が正しい存在であること、それが彼の唯一の希望だ。」

つまり、峯は、現在の自分の事を「正しくない存在」と認識している事が表白されています。

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