夏目漱石について その79

 今回は三四郎に出来た三つの世界の内の「第二の世界」です、第一の世界は遠く離れた故郷でしたが、此方は建物になっています。
 「第二の世界のうちには、苔のはえた煉瓦造りがある。片から片を見渡すと、向こうの人の顔がよくわからないほどに広い閲覧室がある」
 更に、ハシゴをかけないと手が届かない位に積み上げられた書物は手で擦れたり、指の汚れで黒くなっています。その中でも金文字は光って、色々な紙の上には二、三十年しないと積もらない塵が溜まっています。その世界で動く人影は、大体は不精な髭を生やしていたり、空を見ていたり、俯いていたり、歩き方は色々です。この世界には裕福ではないですが、安らかで落ち着いた様子な者がおり、広田先生や野々宮君がいる、と三四郎は思います。現世を知らないから不幸せですが、煩悩が盛んで不安な事が多い現世から離れる幸せがあり、この空気を殆ど分かっているし、出ようと思えば出られる、でも思い切って捨てるのは残念だ、とも三四郎は思います。この次に考えるのが「第三の世界」です。

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