夏目漱石について その80

 日中も曇天になると半袖でいるのは辛く、薄手のパーカーが必要になりました。日が暮れるのも早くなり、本当の「秋の夜長」になりつつあります、そんな気温と三四郎が思い浮かべる「第三の世界」は真逆になっています。
「電燈がある。銀匙がある。歓声がある。笑語がある。泡立シャンパンの杯がある。そうしてすべての上の冠として美しい女性がある」
 前回の世界と違って、三四郎が抱える「第三の世界」は春の様に躍動的です。埃を被った書物も、封じ込めるような過去もなく、笑い声やシャンパン、綺麗な女性までいます。まるで天国の様な場所ですが、その世界は三四郎にとって最も深く、厚みのある世界なのです。鼻の先にありながら、近づきづらく、まるで空の稲妻の様に遠くから眺める事しかできません。その世界に入らなければ、そんな風に思いながら、どこかが欠けている様に感じます。その世界の主人公にもなれる資格が有り、この世界が円滑に進む事を願うべきなのに、逆に自分も自由を奪っている。それが三四郎には不思議なのです。

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