夏目漱石について その88

 前回は庭にやってきた女性から名刺をもらい、彼女が「里見 美禰子」だという名前だと知り、三四郎は改めて挨拶しました。三四郎は会った事があるだろうと言えば、向こうも会った覚えがあると言いました。しかも、彼女は池の所で顔を合わせた事も覚えていました、よく覚えていると思いましたが、それで言うことがなくなってしまったのです。彼女が最後に「どうも失礼いたしました」と会話を句切ったので、三四郎は「いいえ」と簡潔に返します。そうして、二人で桜の枝を見ていましたが、引越しの荷物も住人も来る気配がありません。すると、三四郎が突然に「先生に御用なんですか」と、彼女に聞きました。
 「高い桜の枯枝を余念なくながめていた女は、急に三四郎の方を振りむく。あらびっくりした、ひどいわ、という顔つきであった。しかし答は尋常である」
 急な質問に驚いたものの、彼女は自分も手伝いを頼まれと言い、この時になって、三四郎は彼女が腰掛けている所が砂で汚れている事に気付きました。

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