夏目漱石について その89

 庭で出会った女性が、自分と同じく広田先生に手伝いを頼まれて来たと知った時、三四郎は彼女が腰掛けている所が砂で汚れている事に気付いて「着物が汚れます」と、言いますが、女性は「ええ」と、返しただけで腰を上げるつもりはなさそうでした。そうして、縁側を見回した目を三四郎に向けると「掃除はもうなさったのですか」と聞いてきた、その顔は笑っており、その笑みに三四郎は親しみやすさを感じました。まだやっていないと言えば、女性は手伝いをして一緒に始めましょうか、と言うので三四郎はすぐに立ち上がった。ですが、女性は座ったままで、まず、ホウキやはたきは何処か聞いてきた。
 「三四郎は、ただてぶらで来たのだから、どこにもない、なんなら通りへ行って買ってこようかと聞くと、それはむだだから、隣で借りるほうがよかろうと言う」
 三四郎はすぐに隣へ行って、ホウキとはたき、バケツにぞうきんも借りて急いで戻ります。ですが、女性は腰掛けたまま、庭の桜の枝を眺めていました。

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