武田泰淳 『風媒花』 九

一 橋のほとり 九

「『今日、桂(クエイ)さんが来られること、峯さん、ご存知ですか』」/原は事務的に、かつ礼儀正しくいった。……。女の噂話など一刻も早く打ち切らせるため、原は性急な、意味ありげな言い方をした。」

ここで、ようやく、この『風媒花』に登場する人物が動き始めます。これまで、ずっと溜めていたと思われる武田泰淳の筆が登場人物へと触手を伸ばしたのです。どうも桂(クエイ)と呼ばれる人が何か意味ありげに登場人物の口に上っています。

次を読み進みます。

「ビルの横手に……。『桂(クエイ)はもう来ているな』そう予想して、峯は喫茶店に入った。……。火曜会に接近することは、国民党系の新聞記者桂にとって、かなり慎重を要する行為だからだ。」

これで、桂(クエイ)と呼ばれていた人物が中国の国民党系の新聞記者である事が明らかにされました。では、この火曜会とは何なのでしょう。中国問題に関係した会合のようですが、政治色を持った会のようです。しかし、これは、更に読み進めなければはっきりしません。

「『そうか、峯の所にも連絡があったか。彼は方々に連絡したんだな』新聞記者の西は、自分のところへも、桂は今日出席を予告して来たと告げた。」

西という人物がこれまた新聞記者なのが明かされます。こうして、次々と登場人物の素性が明かされてゆきます。そして、登場人物の口ぶりからその性格というものが露わになってくるのです。

「『大へんな手廻しだな。僕は桂さんに興味がないしね。だけど来たいなら、おいでなさいと言っといたんだけどね。皆に会いたいと言うなら、会ってもといいと思ったんだ』」

これが西の口ぶりです。どこかしら、背伸びしているようにも感じ、また、つっけんどんな感じも享けますが、それは、後のお楽しみです。

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