夏目漱石について その91

 さて、広田先生に手伝いを頼まれたという女性、美禰子と一緒に掃除することになった三四郎は手際よく着物の袖をまとめた彼女に見惚れていました。その間に美禰子は砂を掃き出し、その後に三四郎が雑巾をかけていきます。更に三四郎が畳を外して叩いている間に、美禰子が障子をはたくと此方も手際よく行っていきます。そうして、どうにか掃除は一通り終わり、二人の距離は随分と縮まりました。そうして、三四郎がバケツの水を取り換えようと台所に行くと、はたきとホウキを持って二階に上がった美禰子から「ちょっと来てください」と声を掛けられます。三四郎は「なんですか」と返し、美禰子が上がったハシゴの下に向かいます。
 「女は暗い所に立っている。前だれだけがまっ白だ。三四郎はバケツをさげたまま二、三段上がった。女はじっとしている」
 三四郎が更に二段上がると、薄暗い所で彼女と顔が近くなります。改めて、三四郎が「なんですか」と聞けば、彼女は「暗くてわからないの」と言います。

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