夏目漱石について その92

 ひょんな事から再会し、美禰子と二人で掃除する事になった三四郎は、美禰子に呼ばれてハシゴを上りました。そこは薄暗く、同じハシゴを上ると彼女と顔が近くなります、そんな状態で改めて「なんですか」と聞けば、彼女は暗くて分からないと返しました。「なぜ」と聞いても、彼女は「なぜでも」と言うだけで、三四郎は詳しく聞く気になりませんでした。なので、彼女のそばを抜けて上に出ました。持ってきたバケツは暗い縁側へ置いて、とりあえす戸を開けてみます、そこで三四郎は「なるほど」と思います。戸を滑らせる部分の具合がよく分からないのです。
 そうしていると美禰子も上がってきたましたが、戸が閉まっているので当然ですが暗く、三四郎は彼女の傍へ近寄ります。
 「もう少しで美禰子の手に自分の手が触れる所で、バケツに蹴つまずいた。大きな音がする。ようやくのことで戸を一枚あけると、強い日がまともにさし込んだ」
 その光が眩しいくらいで、二人は顔を見合わせて思わず笑いだしてしまいました。

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