夏目漱石「坊っちゃん」について28

 一度目はバッタに飛び起き、二度目は蚊帳がうるさくて、ようやく静かになって布団に入れた坊ちゃんですが、なかなか寝付けません。時計を見ると夜の10時半、そこから中学の先生は何処へ行っても、あんな生徒を相手にしなければならないのかと気の毒に思ったり、こんな辛抱強いのは自分には無理だ、そう思うとあれこれと自分の世話をしてくれた清は見上げたものだ、と遠くへ来て初めて清の親切を理解したのです。そう考えている内に清に会いたいと思った矢先、坊ちゃんの頭の上で、二階が落ちるかと思う程、どんと床板を踏み鳴らす音がしたのです。
 数は三十から四十人と思われ、数に比例して声も聞こえてきます、バッタの事を問い詰めた仕返しに生徒が騒いでいるのだろう。そう思うと自分のやった事も認めない上に嫌がらせをしているのかと腹を立て、寝間着のまま宿直室から飛び出して、二階まで駆け上がります。ですが、不思議な事に急に静かになり、人の声も足音もしなくなったのです。

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