一 橋のほとり 十四
「『僕は峯に対して責任があるからな。だからあえて言うんですよ。厭味を言っているわけじゃない』……。『俺が女房か、厭だね』」
ここで、若い腹が最近になってようやくしゃべりだした事が語られ、軍地と峯がとても仲良しな事が語られています。そして、地の文が続きます。
「梅村の同情的な回想談は、峯を心苦しくした。友情。それは全く気恥ずかしい、難物の単語だった。親友。この単語にも、男二人が相手のゴツゴツした骨のうごきや、男臭い呼吸に耳をとがらせ、一つの蒲団に睡らなければならぬ夜の、あの息苦しい具合わるさがこもっている。軍地が欠陥だらけの峯を、どうやら一人前に育て上げた。それは事実だ。」
ここに、峯が軍地らに対して卑屈になっている様子が仄めかされます。どうやら、軍地と峯の親交は峯の一方的な思いから、複雑なものになっているようです。
「大学一年の第一回のRS以来、軍地は、峯を嗅ぎつくし、いじりつくし、知的内臓の底まで腑分け尽くしている。」
これは、とても面白い表現名の鹿田です。ここに武田泰淳という作家の妙味が隠されているように思います。知的内臓とは、言い得て妙です。そして、それを腑分けするとは、巧みな表現です。