夏目漱石「坊っちゃん」について48

 自分は清の金を返さないのではなく、返さない、それは清を自分の片割れの様に思っているから。そんな清と山嵐は元から比べ物にならないが、例え氷水でも甘茶でも、他人から奢ってもらって黙っているのは相手を思っての事、誰かに恩を貰うのは金銭で買える返礼じゃない。どんな人間でも一人前に独立した人間が、頭を下げるのは百万両、とにかく大金より尊い御礼と思わなければならない。つまり、坊ちゃんは山嵐に氷水代を奮発させて、尊い返礼をした気でいる。山嵐も有り難いと思っている筈なのに、裏で手を回して卑劣な振る舞いをしているとは、と坊ちゃんは完全に山嵐を犯人だと考えます。そして、あした学校へ行って、氷水代を返せば、貸し借りもない、それから喧嘩でも何でもしてやろうと勝手に決意します。
 そうして、眠くなったから寝て、山嵐に金を返そうと早めに学校へ来た坊ちゃんですが、肝心の山嵐が来ないのです。英語教師の「うらなり」に漢字の先生、野だに赤シャツも来たのに、山嵐の机の上にはチョークが置いてあるだけです。

Posted in 文学 | Leave a comment

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください