武田泰淳 『風媒花』 十五

一 橋のほとり 十五

「軍地の眼は、藻の重なる中心だけを黒く残して、表面を白く反射させる、深い沼を想わせた。それは、青春の峯を吸い込み、支配した。」

個の地の文の表現の比喩は、危ういものがあります。突然、沼野比喩が出てきて戸惑うのですが、武田泰淳は、沼に何かをかけたいのだとは思いますが、此の沼のひゆは際どいものです。ですが、それだから、ドキッとするのです。このあたりに武田泰淳の作品の魅力が隠されているのかもしれません。

「『皆さん、なかなか元気ですね。僕はニヒリストだからね。皆さんのように元気になれませんね』……。『中国という字を、我々が最初に使用したいんだ。これはのちのち重要なことだからね』軍地は、早のみこみの峯が、よく自分の意図を理解してくれればいいがと気づかいながら、丁寧に説明した。」

どうやら軍地と峯はかつてはつうかあの仲だったことがここで解ります。そして、時代背景として、「中国」という言葉が危険な意味を持っていたことが暗示されます。

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