夏目漱石「坊っちゃん」について57

 さて、前回の記事で坊ちゃんが妙に親近感を抱いた「うらなり君」こと英語教師の古賀ですが、実を言うと坊ちゃんは会議の際に、彼の隣に座ろうと思っていたのです。なのに、会議室に入ると彼が居ない事に気付き、今の席に収まったのです。そんな坊ちゃんの内心を知らずに、校長は直に来るだろうと、目の前にある包みをほどいて、「蒟蒻版」という現代では馴染みのない方法で生成された原稿の写しらしきものを読んでいました。赤シャツは琥珀のパイプを絹のハンカチで磨き始め、それを赤シャツの趣味だと内心で思った坊ちゃんの周りでは、隣同士で何事か話し合っていました。手持ち無沙汰な人は鉛筆でテーブルの上に何かを書いていたり、野だは山嵐に話しかけますが、山嵐は適当な相槌をするだけで、時折、坊ちゃんをお怖い目で見てきます。もちろん、坊ちゃんも負けじと睨み返します。
 そんな所に件の「うらなり君」が気の毒そうに入って来て、用事があって遅刻した旨を添えて校長に挨拶したのです。これで全員が揃ったので、校長は会議を開きますと言い、初期の川村君に自分が読んでいたものと同じものを全員に配布するよう指示しました。

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