夏目漱石「夢十夜」について3

 本日の「第三夜」は子供を背負う「自分」の夢です、冒頭は「こんな夢を見た」です。夢の中で自分は6歳の子供を背負っています、自分の子供だという確信はありますが、その子は目が見えない状態でした。いつ見えなくなったのか聞けば、昔からだと声は子供なのに大人の、自分と対等の様な言い方で答えます。さらに目が見えない筈なのに、田んぼを通った、鷺が鳴いた、と子供は自分が通る道の状況を次々に言い当てていきます。我が子ながら怖くなり、このまま背負っていていいのかと不安が大きくなっていきます。どこかに置いて逃げようかと思うと、背中から笑い声が聞こえます。何を笑っているのかと聞けば、ただ子供は重いかと聞いてくるだけで、重くないと答えれば今に重くなると言います。
 やがて道は森に入り、更に進むと子供が「ちょうどこんな晩だったな」と独り言のように言ったのです、何がと聞けば知っているだろうと答えます。雨が降ってきて、道が暗くなる、やがて杉の木の前を通ると、「何が」を自分は自覚します。百年前、この杉の根の所で目が見えない青年の命を奪った、そう気付いた途端、子供が石地蔵の様に重くなったのです。

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