夏目漱石「夢十夜」について6

 さて、今回の「夢」の「自分」は明治生まれで「運慶が護国寺の山門で仁王を刻んでいる」という評判を聞き、散歩がてら見に行きます。もちろん、この護国寺は東京都文京区に今もあります、夢の中では鎌倉時代に刻まされた筈の仁王を、現在進行形で運慶が刻んでいるのです。集まった人々と一緒に観ていた自分は見物人の声も気にせず、ノミと槌を動かしています。自分は運慶が生きている事を不思議に思いながらも、自分の方を振り向いて頻りに運慶を褒める1人の若い男の言葉を面白いと思います。そして、運慶の技術に感心すると、男は木の中から埋まっている眉や鼻を掘り出しているのだ、土の中から石を掘り出している、という言葉に彫刻が何かを思い出します。
 それなら誰にでも出来ると思い、自分も仁王を彫ってみたくなり、見物をやめて家に帰ります。そして、道具箱からノミと金槌を持ち出して、薪にするつもりだった樫と向かい合います。一番目、二番目、三番目と彫ってみますが、仁王は出てきませんでした。そして、明治の木に仁王は埋まっていないと悟り、運慶が今日まで生きていた理由も理解したのです。

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