一 橋のほとり 二十
桂さんと西、原などとの挨拶が描写されたのちに、武田泰淳は、軍地に、
「駄目だよ。我々の方から言い出さないで聴こうとしても」軍地は仲間の外交辞令に苦笑して言った。『桂さんは政治家だからね』/『わたしは政治家じゃないよ。文化人ですよ。あなた方と同じです』/桂は、自分が単なる知識人として出席した旨を、何度も強調した。……。『政治に触れれば、我々としては日本人の旧悪を責めなければならない。それはしたくないよ』/『かまわんです、やって下さい』」
と、桂と軍地とやり取りが描かれます。ここに、この『風媒花』の時代が終戦直後の日本ということが意味を持ち出します。
「桂は抗戦中の重慶に於ける、ジャーナリストの活躍を語った。……。有名な文学者Qの活動も、桂が援護したこと。Qをはじめ、優秀な文学者の作品を守るため、いかに自分が危険を冒して苦心したかなど語った。」
桂さんのモデルと言われる人は現実に存在していました。しかし、これは小説です。モデルがいたからと言って現実に流される馬鹿をする事はありません。ひたすら、小説世界に沈潜するのみです。