宮沢賢治「注文の多い料理店」について8

 扉に書かれた文字の指示に従い、身ぎれいにして、鉄砲と弾丸に貴金属を外して、衣服の殆どを脱いで、牛乳のクリームを耳まで塗った2人の紳士が好い加減に何か食べたいとぼやくと、すぐに次の戸がありました。そこには「料理はもうすぐできます。十五分とお待たせはいたしません。すぐたべられます。早くあなたの頭に瓶の中の香水をよく振りかけてください。」とあり、戸の前には香水の瓶が置いてありました。これも素直に従い、2人は香水を頭へ振りかけました、ですが直ぐに香水が酢のような匂いだと気付きました。用意した者が中身を間違えたのだろうと、2人は扉を開けて中に入りました、その裏には「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。もうこれだけです。どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさんよくもみ込んでください。」とあり、青い瀬戸の塩壺が置いてありました。
 これには今までの事を楽観視していた2人も驚き、顔を見合わせ、ようやく「注文の多い料理店」の意味を理解しました。注文が多いのは客が多いのではなく、自分達に店が注文をしていたのだと、そして此処は自分達に西洋料理を食べさせる店ではなく、自分達を西洋料理にする店だと。2人はがたがたがたがた、と震えだして物が言えませんでした。

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