一 橋のほとり 二十二
「『桂さんはQさんの脱出に、どの程度に手をお貸しになったんてすか』と、原が質問している。原は桂を信用していない。新政府から派遣されない、台湾政府と関係のある記者を、原は本物の中国人と考えられない。」
ここで、桂さんの正体が明かされます。台湾政府の手にかかった記者なのです。更に話は続きます。
「『当時のわたしの行動については、誤解されている』桂は、やや当惑したように言う。/『あの日、留学生が私を訪ねて来た。Qは午後四時に、東京駅に来ると言う。その時間に駅へわたしに来てくれという、伝言なんだ。Qはわたしと話し合いたい事があったんだけどね。だけど、わたしは行けなかった。だって行けるはずせ無いでしょ。当時、わたし達の住居は、憲兵や警察に見張られてたんだから。私が東京駅に行けば、私は尾行されて、待っているQは発見されて、逮捕されてしまう。そんなに馬鹿々々しい、危険な真似はできませんよ。Qにとっても、それは不利だ。わたしは彼のために、金も用意したし、いろいろ奔走もした。わたしが東京駅へ行かなかったことで、わたしが一身の安全を図ったとか、非人情だとか言うのは誤解です。非常に誤解です』」
これは 狸の化かし合いなのか、どうも桂さんのいうことに信用できない所があります。額面通りに取るなと武田泰淳に言われているような感じでこの部分は読むしかありません。