宮沢賢治「銀河鉄道の夜」について13

 不思議な声を聴いたジョバンニとカンパネルラを乗せた小さなきれいな汽車は、ごとごとごとごと、天の川の水や三角点の青白い微かな光の中を走っていきます。窓の外では、線路沿いに短い芝があり、その中に紫のキレイなリンドウの花が咲き乱れていました。そんな中で、急にカンパネルラは母親は自分を許してくれるだろうか、と少しどもり、せき込みながら言うのです。ジョバンニも今になって母親の事を思い出しますが、カンパネルラの言葉を黙って聞いていました、彼は母親が本当に幸せになるなら何でもする、けれど何が母親の一番の幸せか分からない、と泣きそうなのをこらえるように、何かを決心した様に言うのです。
 そんなカンパネルラにジョバンニは思わず、君の母親は何も酷くない、と叫びました。そんな2人を乗せた汽車の中が、急に白く明るくなったのです。それは窓の外に立派な白い十字架が立った島の光でした、車室の中の旅人達が立ち上がるので、2人も思わず立ち上がりました、その時のカンパネルラの頬が、ジョバンニには売れた林檎の様にうつくしくかがやいて見えたのです。それから、汽車はカンパネルラの地図に示された「白鳥の停車場」に十一時きっかりに着き、停車場にある時計の下には「二十分停車」と書かれていました。

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